研究概要

非食料バイオマスの触媒変換

1.木質バイオマス加水分解水素化触媒系の開発

木質バイオマスの主成分であるセルロースは最も豊富なバイオマスであり,さらに非可食であるため再生可能資源として有効利用することが求められている.我々は,固体触媒のみを用いてセルロースを加水分解水素化し,ソルビトールを合成することに成功している(図1).ソルビトールを脱水して得られるイソソルビドはエンジニアリングプラスチックのモノマーとして用いられる.しかし,現在イソソルビドは硫酸触媒を使用して合成されている(図2)。我々は,硫酸に替わる固体触媒の開発を進めている。

図1 セルロースの加水分解水素化
図2 ソルビトールの脱水反応

H-betaがソルビトールの脱水に活性を示すことを見出した.Si/Al比75のものが特に高活性であり,触媒活性はSi/Al比に対して火山型の相関を示した.この結果は,脱水反応に活性な酸点と,脱水で生成した水の排除(疎水性)の両方が必要なことを示唆している.また,速度論的検討や外表面修飾効果の検討により,主な活性点は細孔内部の酸点であることを明らかにした.高活性化均一系触媒である硫酸によるソルビトールから選択的な1,4-ソルビタン生成機構の解明や,DFT計算によるbetaゼオライト細孔空間内における選択的なイソソルビド生成メカニズムの解明に取り組んでいる.

References
  1. A. Fukuoka, P. L. Dhepe
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2. 木質バイオマスの加水分解

セルロース・ヘミセルロースを含有する木質バイオマスを加水分解して単糖を効率的に合成することは,次世代バイオリファイナリーの最重要課題である.我々は,従来の均一系触媒に替わる固体触媒の開発を検討しており,カルボン酸などの弱酸点を持つ炭素材料が触媒となることを

(1)カルボン酸およびフェノール性水酸基を高密度固定したカーボン材料がセルロース糖化に対して高活性であることを検証するため,様々な置換基を結合した安息香酸誘導体をカーボン触媒の活性サイトモデルとして利用し,β-1,4-Glucanの加水分解特性を検証した.2つのカルボン酸またはカルボン酸とフェノール性水酸基が隣接位(オルト位)に結合しているサリチル酸およびフタル酸が他の誘導体よりも高いターンオーバー頻度(TOF)を示すことを発見した.これらの誘導体の高い加水分解特性はカルボン酸基による加水分解作用ともう一つの親水性官能基(カルボン酸またはフェノール性水酸基)のβ-1,4-Glucanに対する吸着作用が協奏的に作動したことに起因している.

(2)活性炭を過流酸塩と無溶媒下で混合することによってカーボン骨格が酸化され,親水性のカルボニル基を高濃度で導入することができる.酸化処理後のカーボン触媒は,我々が開発した混合ミル処理と希薄な塩酸転化を組み合わせる方法により,セルロースの加水分解に高い触媒活性を示した.

(3)ユーカリの粉末を空気によって300℃で参加すると,弱酸性の官能基を多く持つ炭素が得られる.この炭素触媒とユーカリの粉末を混合粉砕処理し,弱酸性の水溶液中で加熱撹拌すると,ユーカリの加水分解が進行してグルコースが80%,キシロースが90%の収率で得られた(図3).この反応系では,100gのユーカリから50g以上の糖を作ることができる.反応後の炭素とユーカリ由来の固体残渣(リグニンなど)は,同じ空気酸化処理により活性なカーボン触媒へと変換することができた.

  
図3 ユーカリを利用した循環型糖化プロセス
References
  1. H. Kobayashi, T. Komanoya, K. Hara, A. Fukuoka
    Water-Tolerant Mesoporous Carbon-Supported Ruthenium Catalyst for Hydrolysis of Cellulose to Glucose, ChemSusChem, 3 (4), 440-443 (2010).
  2. H. Kobayashi, M. Yabushita, T. Komanoya, K. Hara, I. Fujita, A. Fukuoka
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  3. M. Yabushita, H. Kobayashi, J. Hasegawa, K. Hara, A. Fukuoka
    Entropically Favored Adsorption of Cellulosic Molecules onto Carbon Materials through Hydrophobic Functionalities, ChemSusChem, 7 (5), 1443-1450 (2014).
  4. H. Kobayashi, M. Yabushita, J. Hasegawa, A. Fukuoka
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  5. H. Kobayashi, H. Kaiki, A. Shrotri, K. Techikawara, A. Fukuoka
    Hydrolysis of woody biomass by a biomass-derived reusable heterogeneous catalyst, Chem. Sci., 7, 692-696 (2016).
  6. A. Shrotri, H. Kobayashi, A. Fukuoka
    Air Oxidation of Activated Carbon to Synthesize a Biomimetic Catalyst for Hydrolysis of Cellulose, ChemSusChem, 9, 1299-1303 (2016)

3.海洋バイオマスの利用

カニやエビなど甲殻類のからに 含まれるキチンはN-アセチルグルコサミン(NAG)が多数繋がった高分子であり,それ自身またはその誘導体は医薬品や機能性ポリマーの原料になる.しかし,キチンからNAGを選択的に合成するためには,従来法では,環境負荷の高い大量の塩酸を触媒として用いるか,または酵素による長時間反応が必要となり,実際の用途は健康食品などに限られている.我々は,キチンに少量の硫酸を含浸したのち,室温で遊星ボールミル処理すると,NAGが数個つながった水溶性のオリゴ糖が得られることを見出した(図4).ボールミルの機械的な力がキチン分子の主鎖に対して張力として働き,選択的な分解を促進したと推定している.この中間体をさらに熱水中で分解するとNAGが,メタノール中で分解すると1-o-メチル-N-アセチルグルコサミン(MeNAG)が,それぞれ高収率で得られた.このプロセスでは,液体酸のみに頼る従来法に比べて,酸の使用量を99.8%削減することが可能となった.

  
図4 機械的な力を利用したキチンの分解
Reference
  1. M. Yabushita, H. Kobayashi, K. Kuroki, S. Ito, A. Fukuoka
    Catalytic Depolymerization of Chitin with Retention of N-Acetyl Group, ChemSusChem, 8, 3760-3763 (2015).

 

 

メソ多孔体の触媒機能

4. メソポーラスシリカ担持Ptナノ粒子を利用した低温におけるエチレンの酸化的除去

我々の身の回りにある果物や野菜など様々な植物から放出されるエチレンは,微量ではありながらも果物,野菜,花の腐敗を進める作用をもつため,効率的な除去方法の開発が求められている.特に,果物,野菜,花の鮮度を保って保管や輸送を行う社会的な要請は大きく,室温や0℃などの低温下においてエチレンを除去できる技術の開発は重要である.我々は,メソポーラスシリカ上に担持した数nmの白金微粒子が低温におけるエチレンの酸化除去において優れた能力を有することを見出した(図5).本触媒は50 ppmの低濃度エチレンを0℃においても完全に除去することが可能である.現在はさらに高活性な触媒の開発および触媒の構造解析を進めている.

図5 メソポーラスシリカ担持白金ナノ粒子によるエチレンの低温酸化除去

メソポーラスシリカ担持白金触媒が,日立アプライアンス株式会社(本社:東京都,取締役社長:二宮隆典)から発売される新型家庭用冷蔵庫(2015年モデル)に搭載された.この触媒を冷蔵庫の野菜室に搭載することにより,野菜類の鮮度保持効果の一層の向上が確認されている.この実用化例を踏まえ,本年度はエチレンの低温酸化に対するさらに踏み込んだ基礎検討を進めた.メソ多孔体であるMCM-41,SBA-15,SMA-16に担持した白金触媒は,0℃において低濃度エチレン(50 ppm)を水と二酸化炭素に酸化分解することができる.白金触媒は酸化反応によって生成する水分子により被毒されて活性が低下するが,加熱処理によって吸着水を除去すると活性が完全に回復した.シリカ担持白金触媒は一般的に触媒毒と考えられている一酸化炭素も100 ppm程度の低濃度条件下であれば0℃にて完全酸化することができる.白金表面におけるエチレン酸化の反応機構を解明するため,現在は気相流通実験による反応速度解析を進めている.また,メソポーラスシリカ担持白金触媒の実用化に伴い,冷蔵庫内で生成する悪臭物質の分解に対する検討も行っている.

Reference
  1. C. Jiang, K. Hara, A. Fukuoka
    Low-Temperature Oxidation of Ethylene over Platinum Nanoparticles Supported on Mesoporous Silica, Angew. Chem. Int. Ed., 52 (24), 6265-6268 (2013).

5. アルカンを選択酸化できるシングルサイト触媒の開発

メソポーラス有機シリカはシリカ壁内の有機基の結晶状配列と均一メソ細孔の規則的な周期構造を併せ持つ特異な材料であり,固体表面に均一な構造の錯体触媒サイトを孤立高分散に形成できる新しい固定化単体として注目されている.我々は,ビピリジンを含有したメソポーラス有機シリカ上にルテニウム錯体を形成させることで,ルテニウムの均一な活性サイト構造を持つシングルサイト触媒を開発した.本触媒を,これまでの固定化触媒では困難であった不活性なアルカンの選択酸化反応に適応したところ,アダマンタンおよびcis-デカリンの3級C-H結合を位置選択的・立体選択的に酸化することができた(図6).均一系錯体触媒は活性種同士の相互作用による分解が起こり,さらに触媒の分離回収には多大なエネルギー消費を伴う単離操作が必須だが,本触媒は単純な濾過によって触媒と生成物を分離することができ,さらに回収した触媒は活性および選択性を維持したまま繰り返し使用が可能であった.この高い再使用性は,メソポーラス有機シリカ表面に孤立高分散に固定した触媒活性サイト同士の相互作用を抑制できたためと考えられる.

図6 メソポーラス有機シリカに固定化したRu触媒によるアルカン酸化
Reference
  1. N. Ishito, H. Kobayashi, K. Nakajima, Y. Maegawa, S. Inagaki, K. Hara, A. Fukuoka
    Ruthenium-Immobilized Periodic Mesoporous Organosilica: Synthesis, Characterization, and Catalytic Application for Selective Oxidation of Alkanes, Chem. Eur. J., 21, 15564-15569 (2015).