春は花 いざ見にごんせ東山
色香あらそふ夜桜や
うかれうかれて粋も不粋も
物がたい
ニ本ざしでもやわらこう
祇園豆腐の二軒茶屋
みそぎぞ夏はうち連れて
川原につどふ夕涼み
よい よい よい よいやさ
真葛ヶ原にそよそよと
秋は色増す華頂山
時雨をいとふからかさの
濡れて紅葉の長楽寺
思ひぞ積もる円山の
今朝も来て見る雪見酒
そして櫓のさしむかひ
よい よい よい よい よいやさ
東山 京都の加茂川の東につらなる丘陵、または京都の東方に当たる山々のことを言い、東山三十六峰という称もあり、名勝や旧跡が多い。
色香あらそふ 色や香りを競い合う、美しさを競争しあっている。
浮かれうかれて 心が落ちつかず、浮かれ歩くこと。
ものがたい かたくるしい、気むずかしい。
二本ざし 両刀(二本の刀)を差している、つまり武士(さむらい)のこと。この二本はあとの祇園豆腐の二本の竹の串にかけている。
やわらこう やさしく、おだやかになって。
祇園豆腐 二軒茶屋で客に出す田楽(でんがく)豆腐。
二軒茶屋 八坂神社の境内にあったふじ屋、中村屋という二軒の茶屋(料亭)。
みそぎ 川に行って身体を清浄(きよめる)にすること。
打ち連れて 連れだって、みなでいっしょに。
川原につどう 川原に集まる、ここでは加茂川の川原。この川原に床(ゆか)が作られ、夕涼みで賑わう。
まくずが原 東山のふもと、円山公園の一部にあり、昔は墓地になっていた。詩歌によく歌われている。
秋は色ます 秋になると風景が一段と美しく色どられる。
華頂山 知恩院は華頂(蝶)山をほとんど境内としており、中腹にその 大寺院がある。
時雨をいとう しぐれは秋から冬にかけてときどき振ってくる雨だが、その雨をいやがる、嫌っての意味。
からかさ 傘のこと、ここでは知恩院「忘れ傘」にかけている。知恩院の「忘れ傘」は、この堂を建てた左甚五郎が完全さを避けて、屋根のひさしにわざと忘れて置いたものといわれ、「甚五郎のよろこびの忘れ傘」と呼ばれてよく知られている。
ぬれて紅葉の長楽寺 長(蝶)楽寺は円山公園の上にある寺であり、その長楽に紅葉が雨に濡れて凋落してゆく、おとろえて散ってゆくことをかけている。
思いぞつもる 思う心が重なる、思いがはげしくなっていく。
やぐらのさし向かい 雪見酒から連想すると、やぐらこたつでの二人の差し向かいとも取れるが、これは京都の芝居小屋の南座と北座の向き合った屋根の櫓(やぐら)という意味が本当らしい。
長 唄 「京の四季」
歌 詞
解 説