生体膜表面における環境ホルモンの計測
ゴミ焼却や工業廃棄物から発生したダイオキシン類化合物の一部は内分泌撹乱物質(環境ホルモン)として知られ、微量ながら生体の女性ホルモンのレセプターと結合して蛋白質合成を起こしたり、他のホルモンバランスを乱したりして、地球上の生態系に対して重大な影響を及ぼしていることが報告される。しかしながら、生体膜の表面におけるダイオキシンの計測法は確立されておらず、特に生体内への侵入過程の詳細がまだ解明されていないのが現状である。
本研究は、生体膜表面における極微量のダイオキシン類化合物の吸着過程と表面濃度を高感度で決定できる計測システムの開発を目的とし、これまでに実現されていない可視赤外共鳴和周波分光(SFG)測定システムを構築し、生体膜へのダイオキシン類化合物の吸着過程と吸着構造・配向を解明する。
従来の計測手法では選択的に生体膜の界面のみ調べることは困難である。本研究は二次非線形光学手法の和周波発生(SFG)分光法を主な研究手段として用いる。短時間で高感度のSFGスペクトルが得られるように、フェムト秒レーザーパルスを用い、広領域のSFGスペクトルを同時かつ高感度で計測可能なシステム(ブロードバンドSFG)を構築し、擬似生体膜の表面吸着する極微量のダイオキシン類化合物の吸着過程の解析に応用する。SFGの特徴を生かし、生体膜表面にダイオキシン分子の吸着速度、吸着率、吸着配向・構造及び下地単分子膜の構造や官能基の種類の影響について詳細に調べる。これらの解析結果から、ダイオキシン分子が生体膜での吸着状態及び進入過程についての重要な情報が得られると考えている。また、赤外分光法やラマン散乱及び水晶子マイクロバランス法などの種々の測定法を併用し、詳細な界面分子の情報を得る事により、分子レベルで分子識別可能な計測システムとして開発したい。さらに将来、ダイオキシン分子と生体膜間の電子移動のダイナミクスについて調べ、蛋白質間における電子移動過程の解明につなげていきたいと考える。
この研究は環境化学の計測分野のみならず、強力な界面研究手段となる和周波発生分光法の確立は、表面化学や表面物理や生物学などの広い分野の研究にも大きなインパクトを与えるものと期待できる。
この研究に関する詳細の報告は、この総説を参照してください。