高草木研究室 北海道大学触媒科学研究所 触媒構造研究部門

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研究概要

私たちの研究室では、走査型トンネル顕微鏡(STM)や放射光X線技術(X線吸収微細構造(XAFS))などの先端的ナノ構造解析手法を、原子レベルでのその場/オペランド表面計測法として高度化し、これらを用いて触媒・電極反応プロセスの可視化と機構解明、制御指針の獲得を行っています(図1)。また、従来の熱による活性化のみに頼る触媒反応だけではなく、プラズマや電場による活性化も併用した非在来型触媒プロセスの開拓と機構解明にも挑戦しています。

図1 ①~③の“オペランド表面科学計測システム”による触媒反応プロセスの原子レベル可視化。ここでは、担持金属触媒によるCO酸化反応を例に示しました。反応進行状況を四重極質量分析計でモニターし、“生きた触媒表面”の表面ナノ構造と吸着種挙動の観測を行います。

触媒反応プロセスの原子レベル可視化

触媒反応の機構解明には素過程を明らかにすることが不可欠です。すなわち、触媒表面のどこに反応ガスが吸着し、生成した中間体吸着種がどのように表面上を拡散し、どの場所(活性点)に到達したときに反応して生成物となるのか、活性点の違いによる生成物の違い(選択性)はあるのか、などを解明することです。STM、昇温脱離法(TPD)、光電子分光(XPS/UPS)、計算科学などを駆使することでこれからを明らかにし、触媒の活性や選択性の起源に迫るとともに、触媒性能を制御するための指針を探っています。図2はPt/TiO2(110)触媒表面上でのメタノール吸着過程をリアルタイムSTM観察した結果です。Ptナノ粒子上に吸着し、活性化されたメトキシ種(CH3O-Pt)がTiO2表面へ流れ出すスピルオーバー現象を、世界で初めて可視化しました。

図2  Pt/TiO2(110)触媒表面上でのメタノール吸着過程のその場STM観察(6.4 × 6.4 nm2)。矢印の輝点がメトキシ中間体。55秒/フレーム。

触媒の活性点構造を解明する新しい表面分析法の開発

金属種(単原子やナノ粒子)を酸化物表面に担持した担持金属触媒は、実用的に広く用いられている触媒です。その性能は単原子の場合は配位環境、金属ナノ粒子の場合はサイズや形状(球状・半球状など)に依存するとともに、酸化物との相互作用による電荷移動状態(価数)にも依存することが知られています。しかし、こうした金属活性点の三次元構造や価数を反応中に計測できる手法はありませんでした。私たちは世界で初めて、これらの計測を可能にするオペランド偏光全反射蛍光XAFS法を開発し(図3)、CO酸化反応中のPt/Al2O3(0001)触媒表面におけるPtクラスター三次元構造決定に成功しています。現在、触媒反応中の吸着種挙動を測定できる新しい赤外分光法の開発やSTM/AFMのオペランド化を進行中です。

図3 (a) 開発したオペランド偏光全反射蛍光XAFS装置の概略図。反応ガス導入ライン及び生成ガス検出ラインを備えた小型真空槽をゴニオメーター上に設置し、試料移動(x, y, z)と回転(𝜙)により、放射光X線の全反射条件最適化と蛍光XAFS測定を行う。偏光依存測定は、試料を90度回転(𝜓)して行う。(b) CO酸化反応中のPt活性点立体構造の決定。

プラズマ触媒反応の機構解明と学理構築

カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする考え方であり、現在世界中でその実現のために様々な試みがなされています。化学者は排出されたCO2を触媒を使って有用な分子(COやCH3OHなど)へ変換し、再資源化することを試みています。しかしCO2は化学的に安定であり、その活性化には一般に高温高圧条件が必要です。一方、近年、プラズマを組み合わせることで、反応が穏やかな条件でスムーズに進行することが見出されています。その要因として、プラズマ中で発生する電子やガス活性種(振動励起種、ラジカル種、正・負イオン種など)と触媒表面との相互作用、触媒表面の電子状態・構造変化、新たな反応経路の出現、などが重要と指摘されていますが、詳細は不明です。機構解明や学理構築には、プラズマ存在下での触媒のその場/オペランド計測が不可欠です。私たちはそうした計測法の新規開発を行うとともに(図4)、プラズマを専門とする研究者と連携しながら、高難度触媒反応へのプラズマ科学の適用と反応の劇的促進を試みています。

図4 プラズマ触媒反応中のその場XAFS測定。茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光実験施設(Photon Factory、PF)にて測定。